素敵な公文書、萌える判例「ときめきメモリアルメモリーカード事件」
こんにちは
同級生2、ドラゴンナイト4あたりで目覚めた人、ぼくです。
懐かしい人には懐かしい話。知らない人は「えっ? 何それ」ってなる話。通称ときメモ事件なんて呼ばれている事件のお話です。
この事件の概要を説明するのもこれまた懐かしい話をほじくり返す必要がある訳で。プレステ世代の人なら、なんとなく覚えているであろう「チートによる改造セーブデータの販売」と著作権をめぐって争った裁判です。
この記事は、判例・裁判例を詳しく解説することを目的とした記事ではありませんので、詳しい内容や経過などを知りたい方はもっと詳しく書かれたところがあると思いますので調べてみてください。
ときメモ裁判
伝説の樹の下ではなく、大阪地裁で行われた最初の裁判では、1014万6000円の損害賠償、謝罪広告の掲載などといった請求に対して、14万6000円の支払命令が降りただけとなり、これを不服として原告側は控訴します。
原告の主張
1 原告は、被告による同一性保持権、複製権侵害の不法行為により、次のとおり、合計一〇一四万六〇〇〇円の損害を被った。
(一) 原告は、本件ゲームソフトの映画の著作物としてのストーリーを改変され たことにより、恋愛シミュレーションゲームとしての態をなさないまでに本件ゲームソフト本来のゲーム展開を著しく損なわれ、著しい精神的苦痛を被った。これを 慰謝するに足る慰謝料の金額は一〇〇〇万円を下らない。
(二) 本件ゲームソフトのキャラクターを他社が複製頒布して使用することを原 告が許諾する場合、その使用料は通常、複製物一個当たり商品価格の七%であるか ら、「藤崎詩織」のキャラクターの使用料相当額も、本件メモリーカード一個当た り二〇八・六円(商品価格二九八〇円×七%)が相当であるところ、被告が現在ま でに輸入した本件メモリーカードは七〇〇本を下らないから、原告が被告に請求で きる使用料相当額の損害は一四万六〇〇〇円を下らない。
2 被告は、原告の有する著作者人格権(同一性保持権)を侵害したものであるか ら、原告は、右1(一)の損害賠償とともに、著作者としての名誉を回復するため の措置として、朝日・読売・毎日・日本経済の各新聞に別紙目録一記載の謝罪広告 を別紙目録二記載の条件で掲載することを求める。
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/764/013764_hanrei.pdfより引用 視認性向上のための改行、空行追加あり
原告「うちのゲーム本来のストーリー展開が損なわれたから精神的にキツいので1000万円な。で、キャラの使用料として14万6000円払ってね。あと謝って」
まあ裁判ですので被告も「うん、わかったー」なんて素直にすべての請求を認めるわけもなく当然、争います。
被告の主張
1 仮に原告の主張とおり本件メモリーカードを使用して本件ゲームソフトのプログラムを実行することが本件ゲームソフトの映画の著作物としての同一性保持権を侵害するものであるとしても、そのようなゲームを行っているのは個々のプレイヤーであって本件メモリーカードを輸入、販売した被告ではないから、被告は侵害行為の主体ではない。
2 被告と個々のプレイヤーとの関係は、原告の挙げるキャバレーの営業主とそこで演奏しているバンドとの関係とは明らかに異なる。キャバレーの営業主とそこで 演奏しているバンドとの間には、事実上の支配従属、指揮監督の関係が認められるがゆえに、原告主張のようにバンドによる無断演奏につきキャバレーの営業主に著作権侵害の責任が認められるのである。出版社と印刷所との関係も、印刷所は印刷内容について出版社によって全面的に支配されているという点で、同じである。
これに対して、被告と個々のプレイヤーとの間には、右のような関係がないことは明らかであり、個々のプレイヤーは、ゲームの進行について被告によって全面的に支配されてはいないのである。個々のプレイヤーが被告の施設内で、又は被告の 所有するゲーム機を利用してゲームを行っているのであれば格別、被告が支配する 施設とは全く無縁のところで、プレイヤー自身の所有するゲーム機を使用してゲームを行っているのであるから、原告の主張はその前提を欠くというべきである。
たとえ、個々のプレイヤーを被告として同一性保持権侵害による損害賠償請求等 の訴訟を起こすことが煩雑であるとしても、右の結論に何らの影響はない。権利者 の一方的便宜のためだけに侵害者の定義を変えることはできないからである。
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/764/013764_hanrei.pdfより引用 視認性向上のための改行、空行追加あり
被告「うちの売ってるデータを使ってプレイすることが侵害行為にあたるとしても、やってんのはプレイヤーだし、そのプレイヤー個人との主従関係はないから、うちは権利侵害の主体じゃないよ」
結局、この地裁ではキャラクターアイコンを使用したことに対する使用料としての損害賠償が認められたのみで14万6000円でフィニッシュです。となりました。
これを不服として控訴した大阪高裁での判決では、改変したセーブデータの提供が、同一保持権の侵害になることを認めて、賠償額が114万6000円になったわけです。
萌える判例
本題ですね。
ぼくがこの判例で一番好きなところは「ときメモ」というゲームを説明するためにゲーム内容を説明している最高裁判決の理由部分がとにかく素敵。これに尽きる。
皆に知ってほしい、最高裁の法廷で淡々と読み上げられるときめきメモリアルというゲームの説明と言うものを……
本件ゲームソフトは,ゲームを行う主人公(プレイヤー)が架空の高等学校の生徒となって ,設定された登場人物の中からあこがれの女生徒を選択し,卒業式の当日,この女生徒から愛の告白を受けることを目指して,3年間の勉学や出来事,行事等を通してあこがれの女生徒から愛の告白を受けるのにふさわしい能力を備えるための努力 を積み重ねるという内容の恋愛シミュレーションゲームである。
本件ゲームソフトにおいては,プレイヤーの能力値として
9種類の表パラメータ (体調,文系,理系,芸術,運動,雑学,容姿,根性及びストレス)
及び3種類の 隠しパラメータ(女生徒のプレイヤーに対する評価を示すときめき度,友好度及び 傷心度。以下,表パラメータと併せて「パラメータ」という。)
の初期値が設定されている。そして,プレイヤーが選択できるコマンドが予め設定されるとともに, コマンドの選択により上昇するパラメータと下降するパラメータとが連動するように設定されており,プレイヤーが到達したパラメータの数値いかんにより女生徒から愛の告白を受けることができるか否かが決定される。
本件ゲームソフトにおいては,初期設定の主人公の能力値からスタートし,あこがれの女生徒から愛の告白を受けることを目標として主人公自身の能力を向上させていくことが中核となるストーリーであり,その過程で主人公の能力値の達成度等に応じて他の女生徒との出会 いがあるという設定となっており,そのストーリーは,一定の条件下に一定の範囲内で展開されるものである。
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/268/052268_hanrei.pdfより引用 視認性向上のための改行、空行追加あり
>この女生徒から愛の告白を受けることを目指して,3年間の勉学や出来事,行事等を通してあこがれの女生徒から愛の告白を受けるのにふさわしい能力を備えるための努力 を積み重ねる
>あこがれの女生徒から愛の告白を受けることを目標として主人公の能力を向上させていくことが中核となるストーリー
泣ける裁判とか、その手の本はちょいちょい読んできたけど、これだけ心に染みるときメモの説明をぼくは読んだことが無かった。
高裁判決も、実に素敵。
本件ゲームソフトでは、プレイヤーの前に登場する女生徒は一一人であるが、いずれの女生徒と出会い愛の告白を受けられるかはプレイヤーの到達したパラメータ の数値如何によるところ、例えば、本命とされる藤崎詩織から愛の告白を受けるためには、
(a)九つの表パラメータの値に関して、文系・理系・芸術・運動各13 0以上、雑学120以上、容姿・根性各100以上、ストレス50以下であるこ と、
(b)隠しパラメータの値に関して、ときめき度80以上、友好度50以上、 傷心度50以下、デート回数八回以上であること、の各条件をともに満たしている こと、というように設定されているため、プレイヤーにとっては、初期設定の平凡 な能力値から勉学・スポーツともに優秀で容姿も端麗であるという最高の能力値を 備えた人物に成長するよう各パラメータの上昇・下降のバランスをとりながら操作 をすることが求められている。
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/721/013721_hanrei.pdfより引用 視認性向上のための改行、空行追加あり
まるで攻略本である
他にも、
本件ゲームソフトは、プレイヤーが主人公として三年間の高校生活における行動 により、卒業式の日に、好意を抱いた女生徒から愛の告白を受けるというハッピーエンディングに至るか、誰からも愛の告白を受けられずに三年間を終了するバッドエンディングとなるかの差異を生じ、また好意を抱いた女生徒から一度愛の告白を 受けて本件ゲームのエンディングを迎えたとしても、再度最初からプレイをし、前回とは異なった手順(勉強、運動、イベント等への取組みの変更)を踏むことにより、全く異なったゲーム展開を楽しむことができ、前回とは異なった女生徒(藤崎 詩織ら一一名、各人性格や容貌、趣味、男性に対する好み等が異なる設定)から愛 の告白を受けることができ、また同一の女生徒に対して異なった手順により愛の告白を受けることも可能である。
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/721/013721_hanrei.pdfより引用
これほどまでに堅苦しく書かれた「恋愛ゲームの情報」を見る機会はめったにないと思う。
>藤崎 詩織ら一一名
なんか、複数人が関与した事件のニュースでも見ているかのよう…… 引用部分を重苦しい雰囲気でざっと朗読してみると、これまた中々。
裁判の内容も、著作権に関わる重要な議論であったわけですし、当事者にとっても商売であったりクリエイターの誇りに関わる極めて重大な問題だったことでしょう。
判例とか、法律に関する話って、堅苦しい文章で言葉遣いも難しいから興味がないやって人でも、見方を変えれば(茶化すようで悪いが)ちょっと面白い、そういう裁判もある。そして、これを機に少し法律に触れてみたいって人が増えたらいいなって思う。そんな話でした。
ではでは
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